お子様ランチ

着の身着のまま木の実ナナ

11月第3週

月曜日 3つ年上の会社の先輩から若年性の乳がんになったと聞く 涙ながらに話す姿にかける声が見つからない 一緒に働ける時間も短くなってしまった

がんで死ぬ時代じゃない 抱えすぎているから神様が一旦ストップかけたのだと思う そんな言葉が正しかったのかは多分ずっと分からない 先輩の人生の選択肢は変わってしまうのかもしれない

できるだけ笑顔で彼女の望む生活を送ってほしい ただその一心だった

どうりで話し始めからおかしいくらいハイテンションで口数が多かったのか もう自身の病の事実を伝えなくてはならないという義務を一呼吸で終えてしまおうとしているようだった 私はよりによって彼女の本業である客室乗務員という仕事の素晴らしさを褒め称えてしまった もうその本業を休職しなければならないだろうに もしかしたら本業に戻れないかもしれないのに

人生はどこでなにがあるか分からない 無限にあると思っていた人生の選択肢は 実は少しずつ、知らないうちに減っていくものなのかもしれない

彼女の人生の選択肢が減ってしまうのかどうか それが彼女の人生にどう影響するのか 望んだ人生でなくなるのか

全部分からないけど、どんな人生だったとしても間違いじゃない どうか何があっても幸せに過ごしてほしい

私はどうかな 同じことになるかもしれない その時受け入れられるかな 自分の幸せを自分で求めていけるかな

木曜日

彼に大事な話があると言われる てっきりプロポーズかと思ったら アメリカ赴任話が舞い込んできた

2人の生活の素晴らしさ 大切さを身に沁みて実感しているのに あの家の素晴らしさを身に沁みて実感しているのに 日々の生活で生まれる私の感情を あなたにぶつけて昇華している私は 1人でどうすればいい?

土曜日

2人ともほんの少し不自然に 自然を装って生活した 一緒に住む前のように丁寧に言葉を選んで話しているのがわかる

夜、話し合いが持たれた 人生設計について

私は自分がついていくことを考えられなかった 彼は自分が諦めることを考えられなかった

それなら早く行って早く帰ってきてほしいと伝えた 籍を入れるか 家族を持つか 何年行くのか 全部分からない、難しい問題だった 自分たちで見つけた仮の正解は、籍を入れ、家族の準備をし、早めに帰れるようにすることだった

私は今のままで籍を入れていいのか 家族を持つ覚悟は本当にあるのか 彼は本当に1年で帰ってくるだろうか 不安の宇宙に放り出されて どこを見ればいいのかすら分からなくなった

まだ何も分からない、変わっていない 何一つ受け入れられない

だけど、28歳になったばかりの私の人生に 大きな音が響いている キレイな音じゃない、雑音込みのうるさいノイズが大音量で入ってくる 自分の幸せを自分で拓いていかなくちゃ キレイな音を見つけなくちゃ