お子様ランチ

着の身着のまま木の実ナナ

おやすみ

2023.03.14

今までの人生で一番長く感じた日だった

まだ受け止めきれなくて 何から書き残していいか分からない

どうして日曜日ちゃんと挨拶しないで帰っちゃったのかな そもそもなんで帰っちゃったのかな なんで家で最後を一緒に迎えさせてあげられなかったんだろう

モルヒネを使い始めてからまだ2.3週間しか経っていないのに じっちはすっかり痩せ細ってしまっていた ばぁばは介護に疲れ果ててしまっていた

お家での最後を望んでいたのに 入院をさせてしまったこと 後悔しかないのは確かだけど ばぁばが泣きながら介護する姿を見て 入院を止められなかった

2日前、あんなに暖かかった手は 私の手を握り返して離さなかった 何日も食べずに、言葉を発することもできなくなって ずっと眠っていたけど、時々起きて私の顔を見ては 「あぁお前か」と言わんばかりの表情で 暖かい瞳で私を見つめて頷いていた いつもの眼差しだったから、きっと意識はしっかりあるんだと思った もうすぐかもしれないという思いと向き合えなくて まだ大丈夫、入院したら良くなると自分に言い聞かせてしまった

もう一度握った時だってまだほんのり暖かかった

火曜日、朝イチに介護タクシーが迎えに来て入院する予定だった 会社で会議中に電話がかかってきていた 気が付かなかった ママからのLINEを見て、自分の体の重量が急に重くなるような 心臓が止まって体が冷たく重くなるのを感じた

気が動転して先輩たちに変なことを口走ってしまった 走って走って 夫となる人に連絡して 走って走って 息が切れて走れなくなって、自分が生きていることを知る もう家族が生きていないかもしれないことを考えて泣く 泣いて自分が生きていることを知る

そこから病院までの電車がなんと長く感じたことか タクシーも断られ、四ツ谷からの中央線 よりによって快速電車、泣きながら 隣の席のサラリーマンはわざわざ一つ隣に離れて座った 一駅一駅が永遠より長かった

病院でドラマみたいに心拍0になった機械を見て 明らかに動かなくなったじっちを見た 後悔が募る 2日前に戻れたら どうして、どうして 抱き寄せた肩は痩せ細り、骨張っていた まだ少し暖かかった 2日前と同じように手を握った まだ少し暖かかった

霊柩車を見送って 平日の昼間、空高くよく晴れた青空 時間がゆっくり流れていた

帰りのタクシーでばぁばが あぁ疲れたと漏らした 場違いに陽気な運転手が今日はホワイトデーだからとチョコをくれた テンションを合わせて明るく感謝を述べることで正気を保った

あぁ なんて人間は脆く儚いのだろう こんなにあっけなく死んでしまうのに どうして90年も生きられるのだろう

眠っているような、今にも起きてきそうな表情なのに 明らかに魂がそこに宿っていないことを感じる 幽霊や心霊現象、四十九日まで魂が現世に留まるといった類いの話が 全て残された人間のためにあるものだと知る

ありとあらゆる社会的な人間の営みがあっけなく感じる 食べること、寝ること、生きること それだけが全てなのに 誰かを妬むこと、自分を大きく見せること、誰かを騙すこと、自分や人を傷つけること、殺めたりすること 恋や愛を感じること なんと高等動物の営みだろう なんと生きる上では不要な、あっけないことだろう

がんの痛みがひどくなってからは 尊厳死を望んでお医者さんにも伝えていたらしい 今の日本じゃ違法なんですよっていなされたらしいけど それくらい痛みが辛かったんだよね

ばぁばとママはじっちに入院させてしまいごめんねと繰り返して じっちは涙を流した 毎日顔を見にくるからと伝えると 何度も頷いた それが最後の会話になった

その場に居合わせられなかったこと、入院を止められなかったこと、後悔しても後悔し切れない

人生は死ぬまでの暇つぶし ある意味ではそうかもしれない 死ぬまでに私はどれだけ多くのことを感じ、残せるかな 仕事なんて人生における暇つぶしのひとつでしかないのに 選択を間違えてしまった 私には家族が幸せでいること以上に大切なことはなかったのに

心に大きな穴が空いて 考えれば考えるほど涙が出る 思考は悲しみを回避するのか じっちのことじゃないことを考えたり 一般論を考え始める

写真を見返して、思い出しては涙が出る 口数こそ少ないが、誰より家族を思い 見守ってくれた

私が挨拶せずに家を後にすると わざわざ電話をかけてきた 何も言わずに帰るんじゃないって ごめんごめんなんて言ったけど 私も本当は帰りたくなかったから じゃあねバイバイってずっとうまく言えなかった 多分、ずっとバイバイって言えない

ついこないだまで一緒にクロスワードパズルをしていたのに

どうかじっちが痛みや苦しみから解放されていますように 笑っていますように

ありがとう おやすみ 大好きだよ

あなたの自慢の孫娘より